【30代男性】最期に父親がきてくれた

幼少期に、両親は離婚した。それからは、女手一つで自分と姉を育ててくれた母のために、父親に会いたいとは言い出せなかった。なぜなら、母はいつも父の悪口を言っていたからだ。姉も、ただ一生懸命に働いていた母親の味方である。

僕は大人になって、企業へも就職したけれど、自分には向いていないことを散々思い知り、小さくてもいいから、自分で飲食の店を出したいと思った。お酒の勉強などをして、色んな所へも行き研究しながら、自分のやりたいことへと向かっていった。

26才で開業。色んな方の応援や支えがあって、10年近く続けてこられている。2年前の夏、コロナ渦ではあるが、移転へと乗り出した計画は中断することができずに、予定通りに開店に至った。

何とか落ち着いた、翌年、僕は父親へ手紙を書いた。どこに住んでいるとか、再婚しているとかいう状況は知っていた。手紙の内容は、『○○と申します。この町で開業しました。』という、お知らせの内容だった。

その手紙が到着したと思われる2日後、一人のおじさんのお客様がぎこちなく入ってきた。ビールを注文して、「あなたもどうぞ」といった手振りで、僕にも注いでくれて小さく乾杯した。自分の親父だとすぐにわかった。

この日を忘れない。手紙を書いてよかった。父親は、この頃、自分が癌であることを知って、その2か月後に亡くなった。自分でも知っていたのか、息子と再会できてこれからが楽しみに思っていたかはわからない。

この話を聞いてもらって、少し救われた。悲しみとせつなさ、でもやって良かったことの確信が得られた。