【70代男性】お袋に最後にしてあげたこと
83才で亡くなった母親は、昔の良き母親像だった。
女手ひとつで、自分のことしか考えてなかった俺と妹を、旅館の仲居さんをしながら育ててくれた。
自分に、子供ができて、その子供が重い心臓病で手術が必要だった時、当時一千万近くかかる費用を、どうするべきか悩んでいたら、お袋が「これを使ってすぐに手術をしてあげて」と通帳を渡してきた。一千五百万ほどの預金が20年の歳月で貯めてあった。
すぐさま手術をして、子供は助かり、元気に生きて、もう30半ばになる。
当時、俺は通帳の預金をあてにして好き勝手なことをしていた。お袋は「もう見せちゃったんだから仕方ないね」と文句ひとつ言わなかった。
俺のことは、認識していたが、少しまばらにボケ始めた時、ミカンが食べたい。と言ってきたお袋に、初めて口の中にミカンをいれてあげた。顔が汚れたから、タオルで顔をふいてやった。
俺がお袋にしてあげた唯一のことだった。お袋、今更だけど、ありがとう。